相続権がなくなる!相続欠格、相続廃除とは?
相続する能力がある人とは?除外される人とは?
財産を相続する能力については原則として外国人も含めた全ての自然人が有するものとされています。相続開始(=被相続人の死亡)時点において胎児であった者も「既に生まれたものとみなす」とされ、相続能力が認められています。ただし、民法では相続欠格・廃除という2つの制度を設けて相続人から除外できる者も定めています。では、どういった場合にそうなるのか、どういった手続きを経て相続人としての立場を失うのかを確認しておきましょう。
相続欠格とは?
相続欠格とは本来法定相続人であった方が一定の事情によって相続資格を失うことです。例えば、子どもが親を殺した場合、親が殺されたのを知りながら告訴しなかった場合、被相続人を脅迫して自分に有利な遺言を作成させた場合、自分が多く財産をもらいたいために他の相続人に相続させないような策略を図った場合など、相続人として認めるのが相当でない場合に相続欠格となります。
このような相続人にまで相続を認めると遺産を早く、あるいは多く受け取るために被相続人や他の相続人を殺したり、遺言書を無理やり作成させたり、撤回させたりして不正が横行する可能性が高くなります。そこで、そういった非行をした相続人からは永久に相続の権利を奪い、適切な相続がなされるように図っています。相続欠格者となったら当該相続人は当然、相続人としての資格を失うので遺産相続できません。もちろん、遺産分割協議に参加することもできませんし、遺贈によって財産を受け取ることも許されません(なお、遺贈の場合は「受遺者」であって「相続人」ではありませんが、欠格事由について準用されています)。このように、相続人としてふさわしくない人間から相続の資格を奪うというのが相続欠格という制度です。
どのような場合に相続欠格となるのか?
では、具体的にどのような場合に相続欠格者となるのでしょうか?
民法は相続欠格について以下のとおりに定めています(民法891条1~5号)。
- 故意に被相続人や自分より相続順位が先又は同順位にある相続人を死亡させ、又は死亡させようとして刑に処せられたもの
故意に被相続人や自分より相続順位が先、又は同順位にある相続人を死亡させた場合や殺人未遂の場合で刑事裁判となって有罪判決を受けて刑罰を適用されたら相続欠格者となります。実刑判決だけではなく執行猶予判決でも欠格事由です。ただし、刑事裁判で有罪にならなかった場合は相続欠格にはなりません。
- 被相続人が殺害されたと知りながら、告訴、告発しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が相続人の配偶者や直系尊属(親、祖父母など)、直系卑属(子どもや孫)であった場合は、例外とする
被相続人が殺されたと知りつつ捜査機関へ告訴・告発しなかった場合は相続欠格者となります。ただし、小さい子供などで分別がない場合や加害者が相続人の配偶者や親・子どもなどの直系血族であった場合には告訴を期待できないので相続欠格者になりません。
- 詐欺や強迫によって被相続人による遺言行為(作成・撤回・取消・変更)を妨げたもの
遺言者である被相続人をだまし、あるいは脅迫して遺言書の作成、撤回や取消、内容の変更を妨害すると相続欠格事由となります。
- 詐欺や強迫により、被相続人に遺言行為(作成・撤回・取消・変更)をさせたもの
実際に被相続人に詐欺や脅迫を利用し、遺言・取り消し・変更させることも相続欠格事由となります。
- 相続に関する被相続人の遺言書について偽造・変造・破棄・隠匿した者
遺言書を偽造・変造したり破棄したり隠したりすると相続欠格事由となります。
相続欠格の効果
相続欠格事由に該当した相続人は裁判手続きなどを要せず、当然に相続権を失います。また、欠格者は遺贈を受けることもできなくなります。相続人が相続欠格であるという事実は戸籍に記載されることはありません。したがって、不動産登記の実務では相続欠格者であることの立証がない限り、相続適格者として扱うこととなっています。相続登記を相続欠格者を除いてする場合には添付書類として相続欠格者の作成した書面(相続欠格事由の存在することを認める書面・印鑑証明書付)を添付して行います。また、相続欠格の効果は相続発生前に欠格事由に該当した場合にはそのときに、相続発生後に欠格事由に該当した場合には相続発生時にさかのぼって効力が発生します。そして、欠格者に子がある場合にはその子が代襲相続人となります。
相続人の廃除とは?
相続人の廃除とは相続人から虐待を受けたり、重大な侮辱を受けた時、またはその他の著しい非行が相続人にあった時に被相続人が家庭裁判所に請求して虐待などをした相続人の地位を奪うことを言います。この申し立ては被相続人が生前か遺言書でしかすることは出来ません。
相続人廃除の手続き方法
相続人を廃除するためには家庭裁判所に申し立てる必要があり、次の2つの方法があります。
- 被相続人が生前に自分で家庭裁判所に相続人廃除の申立てをする
- 遺言書で相続人廃除をする
遺言書で相続人廃除をする時は被相続人は実際に手続きをすることが出来ませんので遺言書で指定された遺言執行者が代わって家庭裁判所に相続人廃除の請求することになります。遺言書での相続人廃除の手続きには遺言執行者が必要となりますので遺言書に遺言執行者が書かれていないからといって他の相続人が勝手に相続人廃除の手続きをすることはできません。必ず遺言執行者を選任して遺言執行者が家庭裁判所へ手続きを行うことが必要になります。
相続人廃除の申し立てをする主なケース
- 相続人が被相続人を虐待した場合
- 相続人が被相続人に対して、重大な侮辱を与えた場合
- 相続人にその他の著しい非行があった場合
- 重大な犯罪行為を相続人が行ない、有罪判決を受けている
- 被相続人の財産を相続人が不当に処分した場合
- 賭博を繰り返して相続人が多額の借金を作って、これを被相続人に支払わせた場合
- 配偶者が愛人と同棲して家庭を省みないなどの不貞行為
- 配偶者の場合には婚姻を継続しがたい重大な事由
相続人廃除を家庭裁判所が確定すると戸籍の身分事項という欄に相続人廃除の記載がされ、相続人廃除手続きが完了します。相続手続きの中では必ず戸籍謄本等が必要になりますので戸籍に相続人廃除の記載があればすぐ分かるようになっています。
ただし、相続人廃除が認められた事例は少ない!
家庭裁判所はかなり慎重に相続人廃除の審議をしているようです。相続人廃除が認められた事例は、実際そう多くはないのです。また、遺言でする相続人廃除は廃除の対象となる相続人が異議を申し立ててくると実際には廃除が認められないケースが多く、廃除の対象となる相続人が全く異議を申し立てずにいるか、刑務所に入っている場合でもなければ廃除の対象となる相続人の相続権が剥奪されることはほとんどないようです。
相続欠格と相続廃除との違い
相続欠格と相続人の廃除は全く異なります。大きな違いは相続人の意思によって行うかどうかです。相続欠格の場合、相続人の意思とは無関係に欠格者となって相続する資格を奪われますし、撤回や取り消しができません。相続人の廃除の場合には相続人の意思によって廃除できますし、後に取り消しも可能です。