遺言とは?
遺言とは何か?
遺言とは被相続人の最終の意思表示のことです。遺言を作成しておくことにより相続財産の承継について被相続人の意思を反映させることが可能となります。ただし、遺言はただの遺書とは違います。法律で定められた方式で作成されたものでなければ法的効果を生じません。法律で定められた遺言の方式としては自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言などがあります。日常用語としてはゆいごんと読まれることが多いのですが、法律上はいごんと読まれます。
一昔前までは相続問題といえば相続“税”の問題であり、遺言も一般の方には関係のない一部の資産家だけの問題と捉える傾向がありました。しかし、今は違います。相続問題で一番多いのは遺族同士の争いであり、これはどの遺族にでも起こりうる問題となっています。揉める一番の原因は亡くなった方(被相続人)の意思がわからないことです。ですから、最愛の家族に無用な争いを起こさせないためにも最後のメッセージを「遺言」という形で遺しておくことをお勧めします。
遺言の効果
遺言は個人の意思を死後においても尊重しようという制度です。したがって、遺言を作成しておけば自分の死後であってもその遺言に従って法理関係が形成されることになります。特に相続財産は被相続人が築いてきたものですから、この相続財産に対しては遺言の効力が大きく及びます。例えば、法定相続分とは異なる相続分を指定したり、または法定相続人ではない第三者に相続財産を遺贈したりすることができます。
具体的にいうと相続人が複数いる場合に遺産(相続財産)のうち不動産は妻に、遺産のうち預貯金は長男に、遺産のうち自動車は長女に、などのように相続における財産の配分の仕方を決めておくことなどができるということです。
とはいえ相続の制度は公権的な制度としての意味合いも持っています。したがって、遺言を作成したとはいえ、あらゆる法律関係について定めておくことができるというわけではなく、遺言で定めることができる事項(遺言作成によって法的効果が生ずる事項)には一定の制限があることも事実です。
例えば、法定相続人(兄弟姉妹を除く)には遺言によっても奪うことのできない最低限の取り分として遺留分が保障されていますので、遺言によっても遺留分を侵害することような内容を定めることはできません(仮にそのような内容を定めても無効となります)。また、財産関係については比較的遺言によって定めることができますが財産関係よりも公共性の強い身分関係については遺言で定めることができる事項は限られています。
例えば、身分関係については死後認知など一定の場合を除いて遺言書に記載したとしても法的な効力を生じません。したがって、遺言を作成する場合にはその遺言に定めようとしている内容がはたして遺言しておくことで法的な効果を生ずるのかを検討しておく必要があります。
遺言書作成の必要性
相続が起きたときの一番悲しい出来事は残された相続人である妻や子供たちの間で争いが起きることではないでしょうか。「親が死ぬと兄弟仲が悪くなる」という例を、あなたも聞いたことがあると思います。相続がきっかけとなって文字通り「兄弟は他人の始まり」になるケースは少なくありません。いくら事前に相続税対策を行って財産をたくさん残しても財産を巡って争うことになってしまっては元も子もありません。しかし、一通の遺言書を作成することで残された相続人同士での争いを未然に防ぐことができます。遺言は相続において最も優先されることになりますので遺言書を作成しておけば被相続人が亡くなったあとに被相続人の相続財産をそれぞれの相続人にどのように分配するかを指示しておくことができ、トラブルを防ぐ有効な手段になります。
相続が争族になってしまう原因の大部分が被相続人の最終意思がはっきりしていなかったために起きています。遺言書さえあれば多少不満があっても故人の意思ということであきらめがつくこともあります。ですから、遺言書で明確な意志表示をし、紛争のタネを残さないことも残された家族に対する思いやりと言えます。
遺言書の種類
遺言には大きく分けて【普通方式の遺言】と【特別方式の遺言】という2つの種類の遺言があり、 一般的に行なわれているのは普通方式の遺言です。
また、遺言は要式行為ですので法律の定めに従った方式で作成しなければ法的効果を生じません。つまり、単に紙に書き残していたという程度では法的な効果を生じない無意味なものとなってしまう可能性があるということです。
遺言作成の代表的な方式としては自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言があります。遺言を作成する場合にはこれらの方式に従って作成しなければ効力を生じないのが原則です(若干の例外はあります)。どの方式を選択すればよいのかということは一概には言えない面がありますので専門家にご相談されることをお勧めします。
遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言です。紙と筆記用具さえあればいつでも作成可能なので他の方式と比べると費用も掛からず手続きも簡単です。また、自分1人で作成できますので遺言内容を他人に秘密にしておけるというメリットもあります。しかし、専門家に内容をチェックしてもらうわけではありませんので「法的要件不備のために無効」となる危険性が付きまとってしまいますし、紛失・偽造・隠匿の心配や遺言の存在をどうやって遺族に知らせるかといった問題もあります。
公証人に作成してもらい、かつ、原本を公証役場で保管してもらう方式の遺言です。作成・保管共に専門家である公証人(役場)がやってくれますから法的に最も安全・確実で後日の紛争防止のためにも一番望ましいと考えられます。ただし、その分の費用がかかること、証人の立会いが必要なことから遺言内容を自分だけの秘密にすることができないというデメリットもあります。
遺言者が適当な用紙に記載し(ワープロ・代筆も可)、自署・押印した上で封印し、公証人役場に持ち込み公証人および証人立会いの下で保管を依頼します。遺言内容を誰にも知られずに済む、偽造・隠匿の防止になる、遺言書の存在を遺族に明らかにできる等のメリットはありますが、逆に遺言内容について専門家のチェックを受けるわけではないので不備があれば無効となる危険性もあります。また、費用も発生します。
普通方式遺言の種類と特長(比較表)
(注)家庭裁判所の検認
遺言書(公正証書遺言を除く)の保管者または発見者は遺言者の死亡を知ったあと、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません。検認とは相続人に対して遺言の存在およびその内容を知らせると共に遺言書の形状、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きであり、遺言の有効・無効を判断する手続きではない。尚、検認を受けなくても遺言の効力に影響はない。
特別方式遺言について
特別方式遺言には危急時遺言(一般危急時遺言・難船危急時遺言)と隔絶地遺言(一般隔絶地遺言・船舶隔絶地遺言)があります。
いずれも普通方式遺言ができない特殊な状況下においてのみ認められる略式方式です。危険が去り、遺言者が普通方式での遺言ができる状態になってから6ヶ月間生存していた場合は特別方式で作成した遺言は無効となります。やはり、平時に十分内容について検討した上で専門家の助けも借りながら普通方式での遺言を残しておくことをお勧めします。